Xのポストで、「おでん屋」さんから、以下の論文(Aoki et al. 2021)でジオロケーターによる追跡結果から、春秋ともに日本列島から東シナ海を横断してインドネシアで越冬することが報告されているはずです」というご教示をいただきました。
この論文は、タイトルにアカモズの学名(Lanius cristatus superciliosus)が入っていないため、Claudeの検索から漏れてしまったようです。「おでん屋」さん、ご指摘ありがとうございます。
この論文は、アカモズと大陸亜種が祖先集団の地理的分断(バイカリアンス)によって分化したのか、それとも大陸亜種からの分散(長距離散布)によって進化したのかを、①系統解析(ミトコンドリアDNA・核DNAのハプロタイプネットワーク解析)、②種分布モデル(SDM)による最終氷期最盛期(LGM、約2万年前)の生息適地推定、③光センサー式ジオロケーター(light‑level geolocator)による渡り経路追跡、の3つのアプローチを使って検証しています。
渡りのルートについては、ジオロケーターのデータからベイズ推定を用い、アカモズの3個体について、秋季および春季の渡り経路が推定されました(図5、S1.5)。2個体については完全な年間データが得られ、残る1個体については、装着から3ヶ月のみのデータが得られました。3個体すべてにおいて、日本列島西部およびCRECS(東シナ海中央部)から台湾北部にかけての海域で、位置確率(平均値)が高く示されました。すなわち、これらの個体は朝鮮半島を経由せず、東シナ海(ECS)横断によって移動したと考えられます。また、年間データが得られた2個体とも、インドネシアのジャワ島とフローレス島で越冬したことが明らかになりました。
追加検索用のプロンプト:この論文を引用している論文をサーチし、その後の研究の進展について教えてください。
Claudeの回答:
Aoki et al. (2021)を引用している論文を調べました。直接の本文(Wiley・PMC)は認証やbot対策でアクセスできませんでしたが、CambridgeCore・Springer・researchmap等の書誌情報から、引用論文とその後の研究動向を整理できます。
Aoki et al. (2021)を引用している主な論文
Wiley上の書誌情報では、この論文の引用数は11件とされています。その中でアカモズの生態・保全に関連する主なものは以下の通りです。
1. Katayama et al. (2022) Bird Use of Fruit Orchards and Vineyards in Japan: Mitigating a Knowledge Gap with a Systematic Review of Published and Grey Literature. Ornithological Science 21(1).
果樹園・ブドウ園における鳥類利用に関する系統的レビューで、長野県のリンゴ果樹園に依存するアカモズの生息環境評価の文脈でAoki et al. (2021)が参照されています。
2. Mizumura, Kubota & Higuchi (2022) The endangered Brown Shrike subspecies Lanius cristatus superciliosus has a male‑biased sex ratio and only early arriving males are paired. Bird Conservation International 32(1): 87.
(前回ご紹介した性比の偏りに関する論文です。)本論文の考察部分でも、渡り経路・越冬地・到着タイミングの解明のためジオロケーターやGPSタグなどの追跡機器の活用が必要と明記されています。
3. Mizumura, Kubota, Nishiumi, Imanishi, Mochizuki & Higuchi (2024) Hybridization and backcrossing between the endangered Brown Shrike (Lanius cristatus superciliosus) and the common Bull‑headed Shrike (L. bucephalus bucephalus). Biological Journal of the Linnean Society 142(1): 81.
これは新しい重要な知見です。個体数が激減し希少化したアカモズが、近縁の普通種であるモズ(Lanius bucephalus)と交雑・戻し交雑を起こしていることを報告しており、少数個体群化に伴う遺伝的攪乱(種の同化・遺伝的浸食)という、これまでの5要因整理(生息地減少・捕食・性比偏り・越冬地問題・人為攪乱)に加わる新たな脅威として位置づけられます。
矢原メモ:発見された交雑個体はオス1個体。母系マーカーはモズなので、オスの「アカモズ」とメスの「モズ」の交配によって生じたものである。アカモズにおける性比の偏り(雄バイアス)がこの交雑の一因となった可能性がある。当該交雑個体には胚が発達していることから、繁殖能力があることが示唆されている。雑種の子(胚)のハプロタイプはモズのハプロタイプと一致しており、その胚の母親はモズだと考えられる。
4. Yamaura, Schmaljohann, Unno, Kawamura, Kitazawa, Sato, Aoki, Okahisa & Senzaki (2025/2026) Loop vs. same route migrations of two songbird species between Japan and Southeast Asia. Journal of Ornithology 167: 71–83.
これはAoki et al. (2021)の手法(光センサー式ジオロケーターによる日本-東南アジア間の渡り経路追跡)を踏襲・発展させた研究で、著者にAoki自身とKitazawa(アカモズ減少論文の筆頭著者)も名を連ねています。北海道で繁殖するキビタキとノビタキの2種を追跡し、キビタキは秋にフィリピン北部を経由してボルネオ・東ジャワへ至る島づたいの南回りルートを取り、春は中国沿岸を経由する大陸ルートで帰還するという「時計回りのループ回遊」を行う一方、ノビタキは往復とも中国経由で移動することを明らかにしました。両種とも中国東岸に重要な中継地があることも判明しています。アカモズそのものではありませんが、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(EAAF)における渡り鳥のジオロケーター追跡という研究群として、Aoki et al. (2021)の系譜に連なる研究です。
その後の研究動向(2021年以降)
長野県が2025〜2026年にまとめた「希少野生動植物保護回復事業計画(アカモズ)」の答申資料では、これまでの知見整理から一歩踏み込んだ記述が見られます。
1970年代以降、国内のアカモズ生息地の環境変化はそれほど大きくないと考えられていることから、全国的な減少には越冬地である東南アジアの環境変化が影響した可能性が指摘されている。
これは前回のレビューで示した「渡りルート・越冬地の要因は不明だが潜在的に重要」という位置づけから一歩進み、国内の生息地変化だけでは説明がつかず、越冬地(東南アジア)側の環境変化が主要因である可能性がより明確に指摘されるようになったことを意味します。Aoki et al. (2021)がジオロケーターで実際の渡り経路(東シナ海を横断しインドネシア方面へ至るルート)を示したことは、この越冬地要因説を検証するための土台になっています。
また、研究者の科研費(KAKENHI)情報からも継続的な取り組みが確認できます。
- 北沢宗大氏:「北海道のアカモズがすみやすい環境は?ーアカモズの保全に配慮した森林管理の提案へー」という、繁殖地の森林管理に関する継続調査。
- 青木大輔氏(Aoki et al. 2021の筆頭著者):「渡り経路の多様性をもたらした歴史的偶然性の解明:日本の渡り鳥に着目して」(2022〜2024年度)、「日本をモデルシステムとした渡り経路の進化における歴史的制約の相対的影響力の評価」(2023〜2026年度)といった、渡り経路の進化史的研究を継続。
- 山浦悠一・先崎理之氏ら:「森林性鳥類の渡りルートの追跡・モデル開発―夜間照明と気候変動の影響評価・予測―」(2023〜2028年度)という大型科研費で、光害や気候変動が渡り鳥のナビゲーションに与える影響の評価・予測に取り組んでおり、Yamaura et al. (2025)のような複数種のジオロケーター追跡研究群の延長線上にあります。